お気に入りのペンを長く使うほど、
そのペンは“自分の一部”のようになっていきます。
新品のときには少し硬かったペン先、
何度も使ううちに手になじむ感覚、
インクの色が少しずつ深みを増していく。
文具を「消耗品」ではなく「育てるもの」として使うと、
書く時間はもっと豊かで愛着のあるものになります。
■ 「使い続ける」ことで道具は育つ
新しい文具を使う瞬間はワクワクしますが、
本当の楽しさは“使い続けること”の先にあります。
筆記具には、使う人の癖や筆圧、
紙との摩擦、手の温度が少しずつ刻まれていきます。
同じペンでも、人によって全く違う“育ち方”をするのです。
ペン先の摩耗、インクの滲み具合、
キャップの開け閉めの跡まで、
それらは「あなたが書いてきた時間の証」。
毎日のノート時間を共に過ごすうちに、
筆記具は“あなたらしさ”を映す道具へと変わっていきます。
■ 万年筆という「育てる文具」
筆記具の中でも、最も“育てがい”があるのが万年筆です。
万年筆のペン先(ニブ)は、
使う人の筆圧や角度によって少しずつ形が変化していきます。
つまり、長く使えば使うほど「自分専用」に育っていくのです。
最初は書きづらかったペンも、
何週間、何ヶ月と書いているうちに
驚くほどスムーズに紙の上を滑るようになります。
その感覚は、まるで長年履いた靴のよう。
身体の一部になじむ道具を手にした瞬間です。
■ ボールペンやシャープペンも「育てられる」
「万年筆はちょっとハードルが高い」と感じる人も多いでしょう。
でも、ボールペンやシャープペンシルにも
“育てる楽しみ”はしっかりあります。
たとえば、
-
替え芯を好みのインクに変える
-
ペン軸を磨いてツヤを出す
-
書き味が変わるまで使い切ってみる
そうするうちに、
「このペンはやっぱり自分に合うな」
「この太さが書いていて一番落ち着く」
そんな“自分との相性”が見えてきます。
使い続けることで、
ペンそのものが自分の思考リズムに合ってくる。
それが「筆記具を育てる」という感覚です。
■ 手入れの時間も、心を整える時間
筆記具を育てる上で欠かせないのが“手入れ”。
万年筆の洗浄、シャープペンの掃除、
ペンケースの中を整える――
それは、道具を整える時間であると同時に、
自分の心を整える時間でもあります。
ペンを分解して軽く拭きながら、
「この1週間、どんなことを書いたっけ」と
ふと振り返る。
そんな瞬間に、
“書くこと”が自分の暮らしに根付いている実感が生まれます。
道具を手入れすることは、
自分の時間を丁寧に扱うことと同じなのです。
■ ノートと筆記具の「相性」を育てる
筆記具を長く使うと、
自然と「このペンにはこのノートが合うな」という感覚が生まれます。
インクがよく滲む紙には吸収の良いペンを、
ツルツルした紙には細字を。
書き比べていくうちに、
ノートと筆記具が“ペア”のように馴染んでいく。
お気に入りの組み合わせを見つけることは、
まるでコーヒーとカップを選ぶような楽しみです。
使い込むほどに味わいが増していく道具たちが、
ノート時間をより心地よくしてくれます。
■ 道具を育てると「書く時間」が育つ
お気に入りの筆記具を手にすることで、
書く時間そのものが変わります。
“書かなければならない”時間が、
“書きたい”時間に変わるのです。
そして、道具を通して「書くこと」が
少しずつ自分の中に定着していきます。
長く付き合う筆記具は、
気分や考え方さえも穏やかに整えてくれる存在になります。
書く時間を続けたいなら、
まずは一本のペンを長く使ってみることから始めてみてください。
■ 自分のペンが「歴史」を語り始める
何年も使い続けたペンを見たとき、
そこに刻まれた小さな傷や手の跡は、
あなたが書いてきた“時間の痕跡”です。
そのペンで書いたノートの数、
仕事のアイデア、悩みごと、手紙の言葉。
ペンは、あなたの人生を記録し続けた“静かな相棒”。
新しいペンを買う楽しみもいいけれど、
一本のペンを大切に育てていく喜びは、
それとはまったく違う深さがあります。
■ 終わりに ― 「使い捨てない」ことで見えるもの
便利なものが増え、
どんな文具も簡単に買い替えられる時代。
けれど、
お気に入りの一本を丁寧に使い続けることには、
“時間を大切にする”という意味があります。
ペンを育てることは、
同時に自分の思考や感情を育てることでもあります。
少しずつ手になじみ、
いつのまにか「これで書くのがいちばん落ち着く」と思えるようになる。
その瞬間、あなたの筆記具は、
単なる道具ではなく“あなたの物語の一部”になっているのです。


